椎間板ヘルニアで神経が圧迫されても「痛みは出ない」

腰痛の原因が椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症ではないのに、そう診断されている人は実に多くいらっしゃいます。私が実際に患者さんを治療した実感では、9割以上の腰痛の原因は別のところにあります。本当の原因を直した結果、腰痛がウソのように簡単によくなった方はたくさんいらっしゃいます。

重い物を運ぶことと椎間板ヘルニアは無関係

巷では、椎間板ヘルニアの一つの原因である「重い物を運ぶ」ことによる腰への負担。本当に重いものを持つことで椎間板ヘルニアになっているのでしょうか?そんな疑問に対する研究論文を紹介しましょう。

2002年、Elfering Aによって脊柱関連学術誌「Spine」に発表された論文です。研究内容は、41名の健常者を対象に、MRIで腰部椎間板を繰り返し撮影し、5年間にわたって追跡調査を行いました。その結果、全体の41%に椎間板変性の発症・進行が見られ、「重い物を持ち上げる」「重い物を運ぶ」「身体を捻る」「身体を曲げる」などの従来の危険因子と言われていた動作は、椎間板変性に影響していないことが分かりました。腰痛発症率も調べてみると、椎間板変性のある方が低かったことも判明し、腰痛と椎間板変性は無関係だと言う結論が出ました。では何が椎間板ヘルニアの原因なのでしょうか?その答えが「遺伝」なのです。

 

米国国立医学図書館
Spine (Phila Pa 1976).
 2002 Jan 15;27(2):125-34.

Risk factors for lumbar disc degeneration: a 5-year prospective MRI study in asymptomatic individuals.

 

椎間板ヘルニアの原因は遺伝

1995年、Battie MCが、脊椎関連の権威がる学術誌「Spine」にこんな研究論文を発表しました。その研究とは、物理的因子が一致しない男性の一卵生双生児115組を対象に、詳細なアンケートとMRI撮影で椎間板変性の危険因子を調査したものでした。物理的因子が一致しないとは、双子でも一人は肉体労働をしていたり、違うスポーツをお互いしていたりと肉体的にかかる負担が違うと言う意味です。そして、一卵性双生児を対象にしたということは、遺伝的にまったく同じ2人を使っていると意味します。

この調査の結果、椎間板変性は、仕事やレジャーによる身体的負担、車の運転、喫煙習慣よりも、遺伝的因子の影響を強く受けていることが分かりました。
そして、この研究は、腰痛研究のノーベル賞と言われているVolvo賞を受賞しました!ここで勘違いしてはいけないのは、椎間板変性や椎間板ヘルニアは遺伝的要因が大きいことが分かりましたが、椎間板変性・椎間板ヘルニアと腰痛は別と言うことです。椎間板変性・椎間板ヘルニアは健常者でも普通におこる、遺伝的な個性というだけです。

 

米国国立医学図書館
Spine (Phila Pa 1976).
 1995 Dec 15;20(24):2601-12.

1995 Volvo Award in clinical sciences. Determinants of lumbar disc degeneration.
A study relating lifetime exposures and magnetic resonance imaging findings in identical twins.

 

椎間板ヘルニアは子供にもある

2002年、Boos Nによって、脊柱関連の権威ある学術誌「Spine]に発表されました。研究内容は、腰痛疾患のなかった胎児〜88歳までの死体解剖例(54体)と、腰痛疾患を持つ14歳〜68歳までの椎間板摘出例(23名)を対象に、20250枚におよぶ腰部椎間板の組織標本を作製し、どちらの標本か知らない第三者の手によって顕微鏡で詳しく分析したものです。その結果、腰痛の有無に関わらず、3歳〜10歳で椎間板への血液供給量が減少し始めるとともに軟骨終板にも亀裂が認められ、11歳〜16歳では線維輪の亀裂や断裂といった椎間板構造の崩壊がみられました。

腰痛があった人もなかった人も、同じように3歳くらいから老化が始まり、11歳くらいから椎間板変性が起きているということです。この研究でも、腰痛と椎間板変性に関連性がないことが証明されたことになります。この研究も、腰痛関連のノーベル賞と言われるVolvo賞を受賞している研究です。

 

米国国立医学図書館
Spine (Phila Pa 1976).
 2002 Dec 1;27(23):2631-44.

Classification of age-related changes in lumbar intervertebral discs

 

画像診断のウソ

病院で行われる椎間板ヘルニアの確定診断に用いられるものとしてMRIがあります。日本はMRI大国で、世界で一番MRIを頻繁に使う国です。椎間板はレントゲンでは写りませんが、MRIならしっかり写りますので、椎間板ヘルニアになっているかどうかは一目瞭然と言うわけです。これなら患者さんも納得と思いますが、ところがそこには大きな落とし穴があります。

1990年、ジョージ・ワシントン大学メディカルセンターのScott D. Bodenらの研究によると、腰痛や坐骨神経痛を過去にまったく経験していない67名をMRIでしらべたところ、60歳以下では1/5の人に椎間板ヘルニアが認められたのです。また半数の人に椎間板のふくらみ(椎間板ヘルニアの手前の状態)が見られたそうです。そして60歳以上になると、なんと1/3の人に椎間板ヘルニアが見つかり、80%近くの人に椎間板のふくらみが見られたのです。要するに、腰痛の経験のない人でも、椎間板ヘルニアを持った人は多く、年齢を重ねるごとにその割合が増えるということです。椎間板ヘルニアとは、椎間板の状態を示しているに過ぎず、腰痛とは、直接関係ないということです。

 

米国国立医学図書館
J Bone Joint Surg Am.
 1990 Mar;72(3):403-8.

Abnormal magnetic-resonance scans of the lumbar spine in asymptomatic subjects. A prospective investigation.

 

モーリン・ジャンセン率いる研究チームが「ニューイングランド医学雑誌」に発表した、腰下肢痛の病歴のない98名を対象にし、腰椎をMRIで調べた研究です。それによると、36%の人は、どの椎間板も異常はなく、52%の人には、1箇所以上の椎間板のふくらみが見られ、27%に椎間板の突出、1%に髄核の脱出があったそうです。この研究では、「MRIによって腰痛患者に椎間板のふくらみや突出が見つかったとしても、多くは偶然によるものである」と結論付けています。 MRIの画像によって、椎間板の異常を見せられると、これが腰痛の原因だと、納得してしまいますが、研究が示すように椎間板の異常と腰痛とは、関係性はありません。

 

米国国立図書館
N Engl J Med.
 1994 Jul 14;331(2):69-73.

Magnetic resonance imaging of the lumbar spine in people without back pain.

 

椎間板ヘルニアで痛みは出ない

1995年にBoos Nによって発表された研究で、強い症状を訴える椎間板ヘルニア患者46名と、年齢、性別、職業などを一致させた健常者46名の腰部椎間板をMRIで撮影し、内容を知らない2名の神経放射線医が読影しました。また、事前に心理社会的側面を探るためにアンケートを実施しました。その結果、健常者の76%に椎間板ヘルニアが、85%に椎間板変性が認められ、椎間板ヘルニア患者と健常者の間にヘルニアのタイプの差はなかったのです。そして、同時に行ったアンケート調査から、仕事に対する姿勢(心理的ストレス、集中力、満足度、失業)や心理社会的因子(不安、抑うつ、欲求不満、夫婦関係)が危険因子が、痛みと相関関係にあったと結論付けました。この研究は、腰痛研究のノーベル賞と言われているVolvo賞を受けた世界的評価の高い研究です。

 

米国国立図書館
Spine (Phila Pa 1976).
 1995 Dec 15;20(24):2613-25.

1995 Volvo Award in clinical sciences. The diagnostic accuracy of magnetic resonance imaging, work perception, and psychosocial factors in identifying symptomatic disc herniations.

 

 

腰痛の原因は筋肉の炎症、もしくは仙腸関節のズレ

私がのべ60,000人以上の方を見てきて分かったのは、腰痛は姿勢が変化することによる筋肉の炎症だということです。もしくは仙腸関節のズレによる放散痛がほとんどでした。整形外科や大学病院では「ヘルニア」と診断されても、姿勢を改善していくと痛みが徐々になくなっていく方がほとんど。仙腸関節も姿勢の問題なので、関節治療の後のセルフケアがとても大切です。

姿勢は「浮き指」が原因なので、足指のストレッチ「ひろのば体操」を1日5分。矯正用の靴下「Yoshiro Socks」を履いて40分ほど歩けば1ヶ月ほどで姿勢変化が見られます。歩きで姿勢を悪くしているのですから、歩きでしか姿勢は変えられません。整体や整骨院で揉んだりストレッチをしても一時的ですぐに元に戻りやすいです。

基本的に自分のカラダは自分でしか良くすることはできないので、努力する姿勢が大切です。テレビや雑誌で色々な情報が飛び交い、何を信じていいのかわからなくなっている人もたくさんいらっしゃるのでは?私もメディアに数多く出演しましたが、全ての情報をお伝えするのには不十分で、出演者の考えや技術というものは5%程度のものでしかありません。

どんな分野でもそうですが、本気で自分を変えたいという人はネットで情報を集めて実践ではなく、直接そのメンターに会いにいくべきです。10万円でも100万円でもその価値があると思えばお金ではありません。私もこれまで自己投資に5,000万円ほど使ってきましたが、その道の第一人者に会うと世界が変わります。電気治療器具や健康器具に数十万円〜数百万円を使うくらいなら、今すぐ全てを捨てて行動を起こすべきなのではないでしょうか。人に会うことでしか人生を変えることはできません。

 

湯浅慶朗(YUASA YOSHIRO)
足指研究所 所長
理学療法士、足指博士、足指研究所 所長。ハルメク靴の共同開発者。東京大学で研究を行う。

病院で理学療法士として高齢者医療(リハビリ)に携わる。現代医療のあり方に疑問をもち、病院を退職。妻のO脚改善をきっかけに足指の研究に入る。一生歩き続けられる体をつくる「ひろのば体操」を考案。西日本新聞連載「お茶の間学・足指伸びてますか~」(全22回)が人気となり、NHK「サキどり」「ガッテン」などで足育として取り上げられ、大きな反響を呼び、足指研究所で足腰の相談に乗るほか、病院の再建をはじめ、一般や学生、児童向けの講演活動を行っており、日本国内だけでなく、ニューヨークやバンコクなど、世界各地を飛び回っている。

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